ボランティア寄稿による生活情報報道サイト 引越中
金曜日 2月 10th 2012

姉の出産 2

「 姉 の 出 産 」

姉が初めて出産したときの話 2

akatyannoasi235wp突然、それまで物音も何も聞こえなかった分娩室から人の声が聴こえ始めた
「しっかりして!」「頑張って!」と、まるで誰かを叱り付けているかのような張り詰めた強い声

続けてピシャッ、ピシャッと何かを叩いているような乾いた音
空気が一転緊迫し、私は不安になった
こんな顔で母を見てはいけないと、母の方すら向けなかった

少しすると赤ちゃんの鳴き声がした
弱々しく、耳を澄まさないと聴き取れないような小さな小さなか細い産声
あ!生まれたんだ!良かったぁ!・ ・ ・ 私はホッとした

一方で、左腕に痛みを覚えた
母がもの凄い力で私にしがみついていた
「あの子はどうしたの?」「あの子は大丈夫なの?」と全身をガタガタと震わせている
私にしがみつかなければ立っていられないほど震えている
「あの子はどうしたの!!!」と、母の声はどんどん大きくなっていく

出産前には姉に対して、「お産なんて昔から棺桶に片足を入れなきゃできないって言われるんだからね、しっかりしなさいよ」と言っていた母
そんな母が、本当に全身をガクガクと震わせて涙ながらに叫ぶ「あの子はどうしたの!!!」

私は人がこんなにも震えている姿を目の当たりにするのが初めてで、母への声の掛け方も判らなく、
左腕で母の全身を支えながら呆然としてしまった

そんな中、分娩室から先ほどの看護師さんが笑みを浮かべて出てきた
「おめでとうございます。母子共にお元気ですよ。大丈夫ですよ。良かったですね。」と言ってくれた

その瞬間、母は私の腕からすべり落ちて、腰が抜けたように床にへたり込んで両手で顔を覆った
「良かった・・・本当に良かった・・・」と、声にならない小声でずっと繰り返しながら泣いていた
母の愛、それが目の前に在った
想像や目に見えないものではなく、確かにそこに在った
心から深く感動した

姉は出産間際になかば力尽きて意識が混濁(こんだく)したとのことだった
私が聞いた乾いた音は、姉の頬をひっぱたいた音だということが後で判った
叱り飛ばすような強い口調も、もうろうとする姉に対するものだった
長男は呼吸が難しい状態、仮死に近い状態で生まれてきたことも

保育器に入れられた長男が先に分娩室から出てきた
信じられないくらい弱々しく小さかった
そのまま集中治療が施され、 姉がわが子を初めてその腕に抱けたのは出産してから48時間後だった
その後も長男は退院できず、姉が一人先に帰された

産後の巣立ちが悪く実家で床に伏せている姉に代わって、その母乳を母が毎日病院へ届けた
要職にある母、しかし、毎日何回も足を運んだ
手間や時間をいとわずに、本当に毎日毎日足を運んだ

今は幼稚園に通う長男
先日姉の家を訪ねた際、二人で当時の話をした
途中で姉は小さな箱を持ってきた
その中には、姉が出産した際に姉の手首と長男の足首とに取り付けられていたネームバンドが納められていた
「これがね、唯一あの子が私の子だっていう証だったの」
優しい目をして話してくれた

その片方のあまりの小ささに、思わず姉と目を合わせて涙ぐんでしまった
油性マジックで書かれていたであろう名前の文字も、既に薄くかすれていた

アウレリア